IFRSのポイント
column ifrs
第7回:研究開発費の資産計上
≪会計上の論点≫
IFRS:研究費と開発費に分け、将来収益獲得が確実な
「開発費」は資産計上
日本:費用処理(一部のソフトウェアを除く)
IFRSを適用する際に、意外と重要となってくる事項が、研究費と開発費を明確に区分することです。
その上で、「開発費」については資産計上の要件を満たしているか否かを検討していくことが必要となります。
今まで研究開発活動をまとめて管理していた会社は、これからは研究活動と開発活動で明確に区分して、業務プロセスを把握する必要が生じます。
IAS38号では、研究と開発について以下のように定義しています。
『研究とは、新規の科学的又は技術的な知識及び理解を得る目的で実施される基礎的及び計画的調査をいう。』
『開発とは、商業ベースの生産又は使用の開始前における、新規の又は大幅に改良された材料、装置、製品、工程、システム又はサービスによる生産のための計画又は設計への、研究成果又は他の知識の応用をいう。』
実際にIFRSを導入した会社では、まず研究開発部門と協議・聞き取りを実施し、研究開発プロセスの実態を把握することから着手しています。
研究開発プロセスの実態を把握した上で、研究活動と開発活動の区分けと、開発費における資産計上の要否について検討しています。
言い換えれば、研究開発活動の実態を把握せずして、IFRS対応を行なうことは出来ません。
IFRSでは、開発費の資産計上の要件として6要件が定められていますが、要するに将来において開発費が回収することができるのであれば、資産計上をしなければならないとされています。
海外も含めた先行事例をみると、資産計上をしているケースと資産計上をしていないケースがまちまちであり、会社の計上方針によって大きく数値が異なってくる項目であると言えます。
資産計上をするためには、上記6要件を満たしていることを立証する必要があるので、その立証の意思次第で資産計上の有無を会社の方で半ば決定することが出来るのが実態のようです。
資産計上された開発費は、将来のキャッシュインフローを生み出す源泉を保有していることを表すので、企業アピールの観点では是非計上したいところですが、日本の先行事例では、保守的な会計処理を選択するケースが多いようです。
すなわち、ある程度の開発の完成や成功が見えてくるまでは、資産計上はしない企業が多いようです。
開発費に関しては、
(1)金額的重要性
(2)資産計上を行なうタイミング
の2点が大きなポイントとなります。
(1)金額的重要性
開発活動といっても、その規模や予算金額は様々あります。ここで、全ての開発活動について資産計上の要否の検討を行なう事は非常に煩雑な作業を伴うことから、事前に一定の金額を定めて、当該金額を超える開発費についてのみ資産計上の要否を検討するという取扱いが実務的であるものと思われます。
言いかえれば、金額的に僅少な開発費は全て費用処理を行なうことになります。
(2)資産計上を行なうタイミング
開発活動を開始した時点で、既に資産計上の要件を満たすことは稀であるものと想定されます。つまり、開発活動がある程度進んだ時点で、その開発活動の成功・完成の目処がたち、それに伴う将来の収益獲得の確実性も見えてくることがほとんどでしょう。
従って、実際は開発活動がある程度進捗してから一定の時点に、資産計上の要件を満たし、それ以降に発生した開発費が資産計上されていくことになるものと思われます。
そのため、開発活動の進捗をモニタリングしつつ、適宜に資産計上の要否を判断することができる仕組み作りが重要になってきます。
資産計上をしたケースで、当該開発にかかる将来収益獲得計画を会社が策定している場合、日本ではその計画の実現可能性について非常にシビアに考えますが、IFRSではその計画のもとに相応の開発コストを会社がかけている事実(経営判断)をもって資産計上するイメージになります。
そのかわり、減損テストは開発完了後に毎期実施していくことになります。
従って、資産計上された開発費に係る減損テストにおいては、当該開発費に関する将来収益獲得計画が
日本基準:達成確実である事が説明できない場合
(現状は、ソフトウェア会計のみ)
IFRS:達成出来ない可能性が高くなった場合
に費用化されるという整理になると思われます。